2024年10月28日
プロベートってなに?!~海外資産(預金・不動産など)をもっていた場合の日本人の相続~

海外に不動産を所有している人やこれから購入する予定の人は、現地の相続制度について理解しておく必要があります。
アメリカなどの英米法系の国では、日本とは異なるプロベートという制度があり、遺言の有無に関わらず、裁判所の監督下で相続手続きが行われます。プロベートには時間と費用がかかるデメリットがあるため、プロベートの回避策への理解も欠かせません。
この記事では、日本とアメリカの相続制度の違いやプロベート回避策について解説します。
日本の相続の流れ
プロベートについて理解するためには、日本とアメリカの相続を比較するとわかりやすいでしょう。ここでは、まず日本の相続の流れについて簡単に解説します。
日本は包括承継主義
包括承継主義とは、被相続人の死亡と同時に、すべての権利義務が相続人に引き継がれるという考え方です。相続人は、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も引き継ぎます。債務が多く、相続したくない場合は、相続放棄しなければなりません。
複数の相続人がいる場合は、原則として、法定相続分に従って分割するか、遺言があれば遺言に従います。相続人は、遺産分割協議により分割割合を決められますが、相続人全員の合意が必要です。遺産分割協議でまとまらなかったときに、家庭裁判所で協議を行います。
日本における相続の流れ
日本で相続が発生した場合の簡単な流れを紹介します。日本の相続では、いくつか期限が設けられており、期限を守りながら手続きを進めていくのが一般的です。
- 1.相続開始(被相続人の死亡)
- 2.死亡届の提出(被相続人の死亡から7日以内)
- 3.相続放棄・限定承認の選択(相続開始から3ヶ月以内)
- 4.所得税の準確定申告(相続開始から4ヶ月以内)
- 5.相続税の申告・納付(相続開始から10ヶ月以内)
- 6.不動産の相続登記(相続開始から3年以内)※分割割合が決まったあと、できるだけ早く
相続税の申告・納付は、相続の開始を知った日から10ヶ月以内に行わなければならず、間に合わないと、延滞税や無申告加算税などが課せられることがあります。そのため、次のような期限が定められていない項目もなるべく早めに進める必要があります。
- 相続人の確定
- 金融機関への連絡
- 公共料金などの名義変更や解約手続き
- 遺言書の有無の確認
- 相続財産の調査・評価
- 遺産分割協議
このように、日本の相続では、被相続人の死亡と同時に、相続人が財産を分割し、期限までに申告・納付する流れになっています。
アメリカの相続の流れ
次にアメリカの相続の流れについて確認します。アメリカの場合は、州によって相続手続きは異なりますので、ここではカリフォルニア州を例に解説します。
アメリカは管理清算主義
アメリカなどの英米法系の国々では、日本の包括承継主義とは異なり、管理清算主義を採用しています。管理清算主義とは、被相続人が亡くなると、裁判所のもと遺言執行者(遺言がある場合)や相続財産管理人(遺言がない場合)が選任され、その人物が相続財産の管理・清算を行う制度です。相続当初から裁判所が関与する点で、日本の相続制度とは大きく異なります。
アメリカのこのような手続きをプロベート(probate)とよび、遺言の有無に関わらず、行われます。おもなプロベートの特徴は、次のとおりです。
- 遺言の有無に関わらず、原則として管理清算手続き(プロベート)が必要
- 遺言執行者または相続財産管理人が、相続財産の管理・清算を行う
- 相続財産は、被相続人の債務の弁済に充てられたあと、残りが相続人に分配される
- 相続人は、相続財産の管理・清算が完了するまで、相続財産を自由に使用・処分できない
このように、アメリカでは、相続人が直接、財産を引き継ぐのではなく、遺言執行者や相続財産管理人を通じて、相続財産の管理・清算が行われ、そのあとに相続人に分配されます。
被相続人の費用や債務を公的に処理することで、相続人間の紛争を防ぐことはできますが、手続きに時間と費用がかかるデメリットもあります。
アメリカにおける相続の流れ
アメリカのカリフォルニア州を例に、プロベートの流れを紹介します。なお、前述したとおり、遺言の有無に関わらず、必ず裁判所が関与します。
- 1.相続手続きの開始
プロベート申立書とほかの申立書類などを、裁判所に提出します。この際、申立手数料として、65,250円(1ドル=150円換算)を支払います。 - 2.公告と通知
相続手続きの申立てが行われると、裁判所から公聴会の通知が行われるとともに、申立人は市の一般発行新聞に通知を掲載しなければなりません。 - 3.遺産管理者または執行者の選任
裁判所の判事は、公聴会の期日に遺言執行者や相続財産管理人を選任します。 - 4.遺産の管理
選任された遺言執行者や相続財産管理人は、被相続人の財産と負債を調査し、遺産税申告書にまとめます。一般的に、遺産管理者が選任されてから1年後に、裁判所から報告の要求があります。 - 5.相続手続きの完了
遺言執行者や相続財産管理人は、遺産の管理を終了し、残りの資産を相続人に分配する準備ができ次第、最終報告書などを裁判所に提出します。判事は、公聴会にて資産分配を承認するかどうかを決定します。
相続の手続きの流れや費用などは州によって異なります。あくまでも、カリフォルニア州の相続手続きにおける一般的な流れである点に留意してください。
プロベートのデメリット
プロベートには、いくつかのデメリットがあります。プロベートは裁判所を介した公開の手続きであり、新聞に掲載しなければならないことから、プライバシーが守られにくいという点が挙げられます。また、時間と費用がかかる点もデメリットです。カリフォルニア州では、次のような費用がかかります。
- 1.申請手数料およびその他の手数料
- 裁判所への書類提出手数料、新聞への通知掲載料、財産評価の鑑定人への手数料などがかかる。
- これらの管理費用は、多くの場合、15万円(1ドル=150円換算)以上になる可能性がある。
- 2.遺産管理手数料
- 遺産管理手数料は、通常、遺産の総価値に対する割合で法律により定められている。
- 手数料は、遺産から遺言執行者や相続財産管理人と弁護士(いる場合)に支払われる。
- 手数料は通常、プロベート手続きの全体が終了するまで支払われない。
- 3.弁護士の雇用
- 遺言執行者や相続財産管理人は、必要に応じて弁護士を雇用できる。
- 弁護士の報酬は法律で定められており、一般的に遺産の総価値に対する割合に基づいている。
- 事案の難易度によっては、報酬がさらに高くなる場合がある。
- 弁護士への報酬は、プロベート手続きの終了時に、遺産から支払われる。
また、遺産分配が完了するまで、通常9~18ヶ月かかり、場合によってはさらに時間がかかります。
出典:CALIFORNIA COURTS「SELF-HELP GUIDE」
なお、プロベートにはメリットもあります。裁判所が法律に従って、被相続人の債務を適切に処理し、相続人間の紛争を防ぐことができます。また、裁判所の監督下で手続きが進められるため、不正や過失のリスク を減らせます。債権者の保護や円滑な権利承継を実現できます。
このようにプロベートには時間と費用がかかりますが、回避する方法もあります。次章でプロベートの回避方法について解説します。
プロベート回避策
プロベートにはデメリットがあるため、プロベートを回避する方法もあります。ここでは代表的なプロベート回避策を3つ紹介します。
リビングトラスト(生前信託)
リビングトラストとは、生前に信託を設定し、財産を信託に移転しておくことで、プロベートを回避する方法です。信託を設定すると、信託財産の名義は受託者(信託銀行)に移転します。被相続人(設定者)が亡くなった場合、信託財産は信託契約にしたがって受益者(相続人)に承継されます。
信託財産はプロベートの対象とならないため、裁判所を介さずに、スムーズに財産を引き継げます。受益者は設定者の死亡後、即座に信託財産を受け取ることができ、プロベートにかかる時間と費用を節約できます。
不動産の共同保有・預金の共同口座
不動産の共同保有や預金の共同名義口座にしておくことで、プロベートを回避できます。たとえば、夫婦で不動産を共同保有している場合、どちらかが亡くなると、もう一方が自動的にその持分を相続します。同様に、預金口座を共同名義にしておくと、どちらかが亡くなった場合に、もう一方が預金を引き出せます。
ただし、共同保有者や共同名義人を信頼できる人に限定する必要があります。離婚などで関係が悪化した場合、トラブルに発展するおそれがありますので、注意しましょう。
死亡時の受取人指定
前述の預金の共同名義口座のほか、アメリカの銀行口座では、死亡時の受取人指定口座(Payable On Death Account:POD口座)を利用することもできます。POD口座とは、銀行口座に受取人を指定しておくことで、口座名義人が亡くなった際に、指定された受取人が預金を引き出せる制度です。
預金の死亡時受取人指定口座(POD)のほか、証券口座の死亡時承継人指定口座(Transfer On Death Registration:TOD)、不動産の死亡時譲渡証書(Transfer On Death Deed:TODD)もあります。
これらの制度により、被相続人の死亡後、裁判所を介さずに資産を受け取れ、プロベートにかかる時間と費用を節約できます。
プロベートが必要な国
ここまで、日本とアメリカの相続手続きの違いを中心に解説してきましたが、プロベートが必要な国はアメリカだけではありません。プロベートが必要となるおもな国や地域は、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、香港などです。
国や地域によってプロベートの手続きなどは異なりますが、プロベートの回避策を含めて、専門家のアドバイスを聞きながら進めていくことが重要です。
参考:MUFG相続研究所「米国の「死亡時受取人指定口座等」(遺言代用商品)について」
まとめ
日本の相続は包括承継主義であるのに対し、アメリカなどの英米法系の国ではプロベートという管理清算主義が採用されています。プロベートには時間と費用がかかるデメリットがあるため、リビングトラストや不動産の共同保有などプロベート回避策を検討する必要があります。
アメリカやシンガポール、マレーシアなどで海外不動産を購入する場合は、その後の相続のことも視野に入れ、現地の専門家に相談するとよいでしょう。